速水奏の映画メモ

アイドル・速水奏が古今東西の映画について語る企画『速水奏の映画メモ』

シャイニング(1980)

水奏の映画メモ

自 分を演出家というポジションに捉え、人間関係やそこに至る過程に目を向けることで、誰よりも自分の有り方に厳しくいながらにして、誰よりも他人の有り方に寛容な器。それこそ、速水奏の最大の魅力ではないだろうか。

 の魅力は、古今……古今和歌集?なんだっけ、フレちゃんなに書こうとしてたんだっけ~♪えっと、誤解されがちなんですけど、いい子なんです!奏ちゃん、いい子なんです!よく知らないけど、いい子なんです!!って感じで、まいっか、今夜もお待ちかね、『速水奏の映画メモ』、読んでシルブプレ♪今日はね、あの有名ホラー映画、『Sニング』だよ。え?隠す必要ない?たしかに~!

 

 (文責・宮本フレデリカ)

  

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All work and no play makes Jack a dull boy.

All work and no play makes Jack a dull boy.

All work and no play makes Jack a dull boy.

All work and no play makes Jack a dull boy.

All work and no play makes Jack a dull boy.

All work and no play makes Jack a dull boy.

 「仕事ばかりで遊ばない、ジャックは今に気が狂う」

 映画ではこんな訳だったかしら?もともとは、「よく遊び、よく学べ」と子どもを嗜める向こうの諺なのよ。真鍋いつきさんは関係ないと思うわ。

  workとはもちろん、執筆。そしてplayは……彼にとっての、ということを考えるとお酒、かしらね。Jackは本来の諺では、子どもの一般的な名前として使われているけれど、ここではもちろんジャック・トランスのことに違いないわ。

 そして、この文章をクオーテーションしてくること自体が、スティーブン・キング一流の、他の作家への皮肉として利いてくる……

 

 原点にして頂点。ホラーの古典にして今日日なお色褪せない最高傑作『シャイニング』。

 制作は1980年、英米の肝煎りで配給され、製作費1200万ドルに対し世界での興行収入が約8倍にも上ったというわ。

 

 

 本作のオマージュやパロディは枚挙に遑が無くて、これがどれほど後の、映画といわず映像作品に影響を与えたかが窺い知れるわね。

 英語版ウィキペディアには、すべてのオマージュを挙げるととんでもない数になる、ということが書かれているらしいけれど……まさか日本のク〇アニメにまでオマージュされるとは流石のスティーブン・キングもそんなサイコホラーなこと、考えたことなかったんじゃないかしらね……ところで、あのク〇ソアニメでは前にも『イージー・ライダー』のルート66を進んでいくシーンのパロディがあったけれど、制作陣にジャック・ニコルソンが好きな人でもいるのかしらね。ご存知、『イージー・ライダー』はニコルソンの俳優としての勇名を高めた名作だし。

 

 

 あらすじの紹介ね、いいわ。

 舞台は「オーバールック・ホテル」という、アメリカはコロラド州の山中にある、美しい自然を売りにしたリゾートホテルよ。もともと先住民族の墓地があった場所にこのホテルが建てられた時期は、アメリカにウィンタースポーツの流行の波がまだ来ていなかったこともあって、冬は雪に閉ざされ街に出ることすらままならない、という欠点を抱えているの。そんなわけでこのホテルは、冬のシーズンは閉鎖することになっているのね。オーバールック・ホテルではその間、建物のメンテナンスを担う人を外から募っていて、この話に応募してきたのがジャック・トランス(ジャック・ニコルソン)という、小説家を目指している元教師の男。

「このホテルでは、かつて管理人をしていた男が、冬場の孤独に耐えかね発狂し家族を斧で殺し死体を切り刻み、自分は猟銃を咥えて自殺した」

 そんな凄惨な話をホテル支配人のスチュアート・アルマン(バリー・ネルソン)から聞かされてもどこ吹く風、寧ろ妻なんかはホラーテイストな話が好きだから気に入るだろう、と豪語して、ジャックは妻ウェンディ(シェリー・デュヴァル)、息子ダニー(ダニー・ロイド)と共に、このホテルで冬を過ごすことになったの。ジャックとしては、この静かで閉ざされた空間で過ごす間に、自分の小説も書き上げられて一挙両得、との思いがあったのね。その仕事への拘りは映画版『シャイニング』に於いて随所で効果を発揮するわ。

 タイトルにもなっている『シャイニング』。これは、ある人々が持つ超能力のことで、これをダニーが備えている、ということが映画のキーポイントになってくるの。映画版ではダニー目線のシャイニングしか描かれないからそれがどのようなものかを総体的に論じることはできないのだけれど、ダニーのものでは、もうひとりの自分であるトニー(ダニーは自分の口の中に住んでいる、と言う)と対話をすることで、過去や未来といった現実を超えたものを知ることができる力よ。このことは、ジャックとウェンディには理解されていなくて、ウェンディはトニーのことを子ども特有の『イマジナリー・フレンド』だと片付けているフシがあるわ。

 

 管理人を引き受ける契約を済ませたジャックは、改めてホテルが閉鎖される日に家族とここを訪れる。実は『シャイニング』には2パターン(本当は3パターンとされるが、146分版は現在観ることができない)あって、119分版ではカットされているものの、143分版ではホテルへの道中に、ホテルの建つ冬山であるパーティが遭難、生残のために人肉食を余儀なくされた、なんて暗雲立ち込める話が挿入されたりするわ。音楽や映像効果、カメラワークの他にしっかりと脚本でも計算されたホラーの布石をおいておくあたり、愛着の強い映画だと思うところね。

 こうして到着したトランス一家を、ホテルの人間が案内して建物内を歩いていく。料理長の黒人男性ディック・ハロラン(スキャットマン・クローザース)は、トランス夫妻がハロランたちにホテルを案内されている間、ダニーのお守りをするのだけれど、実はハロランはダニーの『シャイニング』に気が付いていたのね。単なる未来予知でなく、『シャイニング』にはテレパスのような能力も含まれていることがここでわかるわ。ハロラン自身もまた『シャイニング』を持っているといい、「このホテルには何かがいる」とダニーに告げ、「237号室には入ってはいけない」と釘を刺す。

 ホテルが先住民族の墓地だった場所に立っていることや、ホールにはナバホ族アパッチ族のモチーフが飾られていること、また示唆的な超能力者に黒人男性を起用するなど、欧米的な呪術や神秘への捉え方がバックグランドに流れているのは見逃せないわね。実はこの映画版『シャイニング』は、原作となったスティーブン・キングの小説と比べると結構な改変がなされていて、キングはそれについて始終批判を繰り返し、ついには自分でドラマ版『シャイニング』を作ってしまったほど、とはこの映画と切っても切り離せないエピソードだけれど、このシーンにもうキングの虫の居所を損ねてしまうようなものがあるの。それが、ハロランの『このホテルには何かがいる』っていうところなのね。原作では、『ホテル自体が邪悪な意思を持つ存在』として描かれているのが作中大きな比率を占めるところで、だからキングとしては度し難いところがあったんじゃないかしら。この違いは映画のエンディングまで尾を引いていくわ。

 ダニーは誰もいないホテルで「いるわけのないもの」を様々目撃していく。同時に、タイプライターに日々向き合って小説を描こうと苦心するジャック。彼がだんだんと正気を失って狂っていく様子もまた怪演というにふさわしいのだけれど、ここも原作では『ホテルの邪悪な力に当てられて正気が虫食まれていく』というところが、映画では『仕事に傾注するあまりに発狂したのか』どうか曖昧に描かれている、という違いがあるわ。ホラーのファクターとして、この差異は小さくないところがあるわね。

 遂に発狂したジャックは、連絡がとれなくなったホテルの様子を見に来たハロランを斧で殺し、妻子を手に掛けようとして追い回すも、ホテルの庭にある庭園迷路の中で凍死する。エンディングでは、ホテルの壁に掛けられた写真の中にジャックの姿が増えていて、彼がオーバールック・ホテルに取り込まれてしまったことが匂わされる、という後味の悪い終わり方が印象的。

 

 

 次に、キャストや構成、制作中のエピソードなどに触れて行こうかしら。

 メガホンを執ったのはスタンリー・キューブリック。SF三部作『博士の異常な愛情』『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』が有名かしら。完璧主義者としても恐れと共に知られた監督で、その気性は『シャイニング』でも遺憾なく発揮されたというわ。まず、冒頭から何度も差し挟まれる、「エレベーターから大量の血液が溢れ出て来る」シーン。これは3回撮りなおしたそうよ。コンピュータ・グラフィックの無い時代、実際にいろいろぶちまけて撮ったそうだから、リテイクには掃除が大変で、実際の撮影ではあのシーンだけで9日もかかったのだとか。こんなものはキューブリックの完全主義を語る上では序の口というのだから怖いわね。本当にホラーなのは映画より監督だったりして。ジャックがストレス発散にと、黄色いボールを投げているシーンにも数日が費やされたのだとか。これはエンディングで、逃げ延びたウェンディとダニーがホテル支配人アルマンと再会するとき、廊下から転がってきたボールが同じ黄色いボールだった……というオチを予期したものだったのかもしれないわね。オチのシーンには132テイクが費やされたというのだけど、このオチ自体がカットになったわ。なんて恐ろしい話なの……!

 この『シャイニング』は映画史上でも重要な意義を帯びていて、それはカメラスタビライザー、通称「ステディカム」が初めて用いられた映画、ということに加え、初めてビデオチェックの技術が導入された、ということもそう。それまでは現像するまで映像チェックができなかった、というので、大きな技術的過渡期に撮られた映画としても研究の価値が今なお有るとされているのだけど、果たしてその技術の導入はキャストにとっては幸か不幸か――

 キューブリックサイコパスじみた完全主義は機材や太陽光と同じだけ電球を焚いて自然光を再現したという撮影環境だけでなく、キャストへの要求としても発揮されたというの。ダニーとハロランが『シャイニング』について話すシーンでは150テイクが使われ、遂には堪えかねてハロラン役の俳優が泣きだしたというのよ。間違えちゃいけないのは、子役はダニーよ。

 他にも、ニコルソンの狂気の演技以上に恐怖を添えた、といわれている妻ウェンディ。演じたシェリー・デュヴァルはこの映画で演技派の評価を確立したと今でこそ言われているけれど、これも自然な演技が出るまでキューブリックが徹底的に彼女の精神を追い込んだから撮れたものだという話があるわ。ちなみに彼女がバットでジャックを殴るシーンは127テイク。内容如何じゃなくて、撮影こそ本当のホラーじゃないの……

 極めつけはギネス記録を持っていたあのシーンね。『お客様だよ~』と、斧で破壊したドアの隙間から完全にトんでしまっているジャックの顔が現れるシーンで、ジャケットにもなっているところ。映画を観たことが無くても、そのジャケットを思い出せるという人もいるんじゃないかしら。驚くなかれ、あのシーンは190テイクだとか。僅か2秒のカットに190テイク、思うところは色々とあるわね。余談だけれど、あそこのセリフはジャック・ニコルソンのアドリブだとか。「僕は医者にかからないといけない!」ってセリフがジャック・トランスにあるけれど、あながちそれは俳優の心からの発言だったのかしら。それでも、キューブリックは子役にはホラーを撮る上でトラウマを与えないように、と細心の注意を払っていたそうよ。トラウマ云々ではなく、ダニー・トランスを演じたダニー・ロイドはその後俳優を止め、現在は大学で生物を教えているとのことだけれど、キューブリックはある映画を撮るということが、俳優のキャリアに与えうる影響についてしっかり理解していたのね。

 雪中の迷路での撮影では、実際に撮影スタッフが迷子になるという事件が続出した、とか。それで、あそこは無線で連絡を取り合いながら撮影が敢行されたのよ。ちなみにキューブリック監督の趣味はチェスで、自分の頭の良さに絶対の自信を持っていた彼は「自分は大丈夫」と豪語していたらしいけれど、やっぱり迷ったらしいわ。私はそういうところ、好きよ。好きなキューブリックのミスといえば、完全主義でいながら『シャイニング』オープニングシーンでヘリコプターのローターが映り込んでしまっているという単純なミスもそうかしら。些細なミスだけれど、全編を通して狂気じみた完璧を標榜して撮られた映画だからこそ、目立った瑕疵になってしまったとは皮肉だわ。

 完璧主義ばかりがフィーチャーされることもあるけれど、キューブリックは別に独裁者であったわけではない、とも付け加えておかないとね。よい映画を作る、そのためにはなんでも犠牲に出来る。彼はそうやって、現場と何が最善かをとことん突き詰めるタイプだった、というわ。ひとつの映画を撮るためには、およそ入手できる本を手に入れ読み耽り、専門家顔負けの知識を身に着けてから撮影に臨む。撮影中も常に知識をアップデートすることをやめない、といった自分にも非常に厳しい人だったみたい。

 

 カメラワークにもこだわりがある監督として、スタンリー・キューブリックは知られているわね。上目づかいにカメラを睨む俳優の目線は、『キューブリック凝視』という名前がついているわ。他にも、自然光や模擬自然光を使った撮影、広角レンズを使ってシーンに奥行きを与える手法、また構図にシンメトリカルを多用したことも彼の特徴よね。そのすべてが『シャイニング』で、生きた撮影技法として観ることができるわよ。

 子どもの視点でシーンを捉えると、あらゆるものが相対的に自分より高い位置に見えるから、大人の目線で見ればなんてことない風景でもとても神秘に満ちて見えるのよ。カメラワークの構図が歪むから、不調和や不気味な感じが掻き立てられるのだと思うけれど。これを計算ずくで取り入れたこの『シャイニング』は、数学的な計算に裏付けられた世界最高のホラー、とも言われているわ。11ヶ月撮影が押した、という話こそ世界最高のホラーかもしれないけれど……

 

 本作もそうだけれど、キューブリック作品には謎が多く鏤められているとも言われているわね。2012年、ロドニー・アッシャーを監督にこの映画版『シャイニング』の謎を考察する、として公開されたドキュメンタリー映画『ROOM237』なんてものもあったりするわ。内容は単なる陰謀論遊びの域を出ない稚拙なもので、自分の作品にとても強いこだわりを持っていたキューブリックが生きていたら憤死不可避の映画だから、こちらはよほど暇じゃない限り観ない方がいいわ。特に、キューブリック作品が好きな人は、ね。よほどポ◯テピピックを観ていた方が……なんでもないわ。

 

 観た人の数だけ解釈がある映画がこの世にある様に、誰にも秘密があって、良いと思うわ。そもそも、舞台の上に居る私と、舞台の上に居ない私は不連続なものではない。あなたと私が同じ映画を同じ時同じ場所で見ても、同じ生き方をしてこなかったのだから、同じ解釈には辿り着き得ない……ふふっ、どうしたの。寂しそうな顔しちゃって。

 お互いが違う物語の紡ぎ手でなかったら、そちらの方が惨酷でしょう?あなたと私がまったく同じ人間だったら……そうね、永遠に出逢う日が来なかったってことじゃないかしら。

 今夜、あなたの記憶に刻まれた私は、どんな私?真実は、あの月だけが知っているのね。

 

(続く)